Salomon TR Mg Elite

●購買までのいきさつ●

 私は今までLongRunには、
K2 Velocity'99HYPNO Breeze'00といった靴を使用してきた。前者は軽量で履き心地がいいし、後者はいざという時にはブレード部分を脱着できるのが便利ないい靴だ。JAILさんあたりを中心として行われている通常のLongRun(G3 20km〜G1 80km)なら、ここいら辺の靴でなんら問題が出ることはない。だが最近masaさん一派が中心になって行っている川下りの方にも参加するようになり、スピードの面で不満を感じることが多くなってしまった。masaさん達のLongRunは、通常のペース自体がJAILさん達のそれより一段高いのはモチロン、かっとぶ時などはかなりのハイペースになってしまう。Velocityはフレーム長とフレーム剛性が、HYPNOは主にシューズ部分の剛性が不足していることと、フレームの取り付け位置が最適化されていないことなどにより、高速時の安定性がかなり厳しいのである(両者とも最大ウィール径76mmというのも厳しい)。つうか、追い風でトップスピードにのったときなど、首の後ろがチリチリ焦げ臭くなるほどの不安を感じる。ん〜、なんか今日はスリルを味わいたい気分なの♪・・・って時ならそれでもいいが、最近LongRun業界も5輪化の流れが激しいし、さすがに限界を感じ始めてしまったので、LongRun専用機を探すことにした。
 選定基準は・・・


1.ロングフレームで、直進安定性に優れること。
2.フレームの剛性が高い(メタルフレームである)こと。
3.軽量で履き心地がよいこと。
4.旋回性能が良く、振り回しやすいこと。
5.かっちょいいこと。

ってところかな。
 '01modelでロングフレームを持たない
ROCESは、いきなりメーカーごと没!貼り合わせの平フレームは剛性上心配なので、K2だとFlight ALX以上になるが、目新しさのない'01modelは買い得感が薄い。Mod8も悪くないが、あのローカフで長距離を乗り切れるものなのか?かといってCirrusは極め付けの短フレームだ。RollarBradeの'01モデルはずんぐりした低重心デザインがしっくりこない。唯一驚異の軽さが気になるCoreCarbonも、フレームの剛性・耐久性に疑問符が付いてしまう。FILAFF91TECNICAPhantom'00も考えたが、どちらも1700gを越える重量が気にくわない。UltraWheelsRollarDarbyは性能的な評判が聞こえてこないから手を出し辛いし、そうすると残りはSalomonだけじゃん。しかもフレームがコの字型してるのはScreamerだけじゃん。つうか、日本中のLongRun愛好者はScreamer買うしかないじゃん。もうコレっかないじゃん・・・・なんて考えに至ったのだが、ちょっと待て!
 まったくその通りで、最近はLongRunに出かけると、かなりの割合でScreamerユーザーにお目にかかる。つうか、むっちゃ多い。練習嫌いの買い物好きであるこの私が、自分より恐らく体力的にも技術的にも遥かに上をいっているであろうそれらの人々とおんなじ靴を履いたところで、それって勝負になるわけないじゃん(いや、別に勝負はしないんだけどね)。ぜんぜんダメじゃん。もう一段上をいかなきゃしょーがないじゃん。でもScreamerってフィットネス用としてはSalomonのトップグレードだろ?もうこの上無いじゃんよ。どうしよう?
 ・・・と、ハマっ子的に悩むこと2週間、私は極めて裏技的な結論に辿り着いた。それは輸入である。インラインスケートはまだまだマイナーなスポーツだけに、海外で発売されている全てのモデルが輸入されているわけではない。いざそうした日本未輸入のモデルに目を向けると、圧倒的にいい感じのモデルがラインナップされていることに気づいたのだ。それこそが今回お題のモデルである
TR Mg Eliteである。

 スペック的なことを言うなら、Screamerよりさらに長いフレーム長。マイクロベアリングの採用により、ウィールまわりが軽量。かてて加えて、モーションエナジャイザーというギミックにより、フットワークの自由度を強化という、まさにこっちの注文にドンピシャの内容だ。レーシーな雰囲気で、デザインもなかなかかっちょ良い。おまけ輸入されてないから日本ではレアだ。持っているだけで目立てること請け合い。こりゃあ買うでしょう。そう思い立ったところで、タイミングよく川崎のダンナがカナダへ出張するという情報が入ってきた。どうやら神も私にこれを買えといっているようだ。『ひとつ頼むよ!』気がついたら東屋の下で、ダンナに手を合わせている自分がいた。かくて数週間後、ダンナの大変な苦労を経て
(ダンナの大変な苦労はこちら)、私の手元にMg Eliteがやって来たのである。
 もう一つ、
K2Catalystも似たような内容で、かなり気になったことを付け加えておこう。LongRun愛好家は要チェックや!


●インプレッション●

 手にして見て最初に思うのは、実際のそれよりフレーム長を感じさせないデザインだ。これは今までSalomonのアイデンティティとなってきたアーチ型のフレーム形状に寄るところが大で、ストーンと伸びている印象を与えない。でもしっかりと長いのである。フレーム長は289mmもあり、4輪では最長の部類に入る。数字だけ聞くと、見るからに振り回すのが大変そうだ。だが
そこらへんを救済してくれるのが、マイクロベアリングとモーションエナジャイザーのコンビネーションである。

きちんと長いぞ(右はRoces NewYork)     

 最近話題のマイクロベアリングはその名の通り、私たちが通常使っている608規格のベアリングより小さい、688という規格のベアリングだ。基本的には小さいというだけで、普通に使っている608規格のものより格段に回りが良いとか、そういうことは一切ない。ではどういうメリットがあるのかというと、それは唯ひとつ、軽量化である。NINJAあたりの触れ込みを見ると、『弊社のマイクロベアリングを使用することにより、70%の軽量化が出来ます』と書いてある。どういう70%なんだかイマイチ良く判らない説明だが、少なくとも16個のベアリングを持ってみて、そのズシリとした重量がかなり軽減されるんだと思ってくれれば、なんとなくありがたみを実感することが出来る(実際にはウィールのコア部分を小さくしないといけないため、ベアリング以外の部分の重量はちょっと増加する)。とはいえ、実際には608ベアリングの自重は11g程度。16個揃えても175g程度の重さにしかならない。これはどういう重さかというと、半分飲んだ後のリポビタンD程度の重さにしか過ぎない。となると、仮にトータルで5割の軽量化を達成しても、軽減されるウエイトは僅かに90g(携帯電話1個分程度)。片足分だとそれこそ45gぽっちだ。えーと、比較するものが見当たらないな。MOディスク1枚分ってとこかな。なあんだ。それでもウィールを含めた回転の中心部分が軽量化されるということは、遠心力が高まり、回転力を求めやすいというメリットを生み出す。同時にクルマで言えばバネ下重量が軽減されるわけで(要するに、重心となるポイントが実際の足の方により近づくというわけだ)、フットワークの軽快さも生み出すことになるだろう。ホントか?
 モーションエナジャイザーの方はサロモン独特のギミックで、足首の前傾方向への自由度を増し、大胆にタンに乗っていくスケートを可能にする仕組みである。また、もとのポジションに戻るための応力も備えている。Eliteでは標準ではネジどめしてキャンセルされているが、このネジを外すことによって足首のフレックスが増加する。


ぐにっと曲がるのだ!

後ろはこんなカンジ

 実際に使用してみると、なんかカフが一気に低くなったカンジ。自由度が高くなるので旋回性も高まるが、足首がしっかりしていないと疲労も早く来るかもしれない。また、反応も敏感で(調整機能は無い)応力もあるため、足首からぐいぐい体重をかけていくスラローマーだと恐怖感を感じることもあるだろう。靴底で行くレベルの私なんかはノープロブレムだ。
 あと使ってみて便利なのはクイックシューレース。これは靴ひもを結ばず、クリップでキュッっと締め上げる類いのものだ。
K2Merlinやサロモンの上級モデルなんかでも使われているが、この使い勝手はたまらない。もっと採用するシューズが増えてもよさそうなものなんだけどな〜。



 さて、実際に履いた感じは、さすがに履き心地のサロモンというぐらいだから良い感じ。でもシューズ全体で足を押し包むようにホールドする感覚は独特のものだ。特にモーションエナジャイザーを使うと、足首もきっちり固定されないので、これといったよりどころといったものが無くなってしまう。これで激しいスラロームをやる人はまず居ないだろうが、その場合にはエナジャイザーをキャンセルしたほうが具合がいいかもしれない。
 フレームポジションは微調整が効くが、標準の状態で若干内寄りのポジションになっているので、アウトエッヂには乗りやすく、かつ4番ホィールから楽に押しだしていける。いわゆる弱オーバーステアっぽい設定。ここらへんからも、このシューズがスポーツカーではなく、グランドツアラーを目指しているのがよく判る。ロングディスタンスを楽にこなすための条件は揃っているので、これでロングランに出たら言い訳はきかないな〜。
 シューズの重量は秤がないのでなんとも言えないが、恐らく1500g弱といったところだろう。ウィールが1個少ないくせに、多分
VitesseMod10なんかと同等といったところ。これはシューズの性格上コンフォート等に余計な重量を使ったためと思われる。あくまでトップスピードを追及する靴ではなく、高速巡航を無理なく行い、身体に適度な負荷をかけ続けるといった使われ方が正道なのだろう。でもその気になれば峠のワインディングだって攻められるよ・・・というような融通性も魅力のひとつといえる。

 さて、機能的には今のところさして弱点は見当たらないこの靴だが、オーナーになるとしたら、実は重大な問題点がひとつ発生してくる。それはサプライの不足だ。さすがに未輸入品だけあって、パーツ類に関しては、少なくとも国内ではまともに入手する手段はない。また、消耗品に関していえばさらに深刻で、ベアリング自体に関してはNINJAのミニマイザーをわずかに市場で目にすることが出来るが、マイクロベアリング対応ウィールの入手に関しては、現時点('01 9月現在)でほぼ絶望的と言ってよい。普通のウィールをマイクロベアリングで使えるようにするためのアダプターもNINJAの方から発売されてはいるものの、試用した人からは精度上の問題が大きく使い物にならないという見解が寄せられている。だが来年度にはVitesseの国内販売も始まるという噂もあるし、これは時間とともに解決されていく問題なのだろう。とはいえ今現在これバリバリ滑りたい人にとっては、ウィールは個人輸入という手段しか残されていないというのはかなり厳しいところだ。

 さりとて国内でレアであるというのは楽しいもので、『その靴なんですか?』とか、『お、Eliteじゃないですか』なんて声をかけられるのは実に快感である。でもヘタすると人間の印象が靴に負けてかすんでしまうことも考えられるので、そのへんはファッション・スケーター的に自分を磨かなくてはなるまいよ。